うちは相続税もかからないようだし、相続については無関係――そのようにお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、相続税の負担が生じるのは亡くなった方の数%と言われており、「相続税」対策とはあまり関係がない方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「相続」自体はだれもが経験します。
データをみてみますと、この「相続争い」――ときに「争続」とも表現されますが――は、年々増加傾向にあります。
相続人となる子供の数は昔と比べて減っているのに、なぜ相続争いは増えているのでしょうか?
まず考えられるのは、「財産の承継」ということについて、意識に変化が起きているからです。
親の生前の意見は絶対、原則は長子相続――そのような意識から、――相続権は兄弟一人ずつに平等に――という意識に変わってきているのです。
それでは、遺産分割がまとまらないのは、どのような場合でしょうか?
次のような場合には、当事者同士の話し合いが難航する可能性があります。
・相続財産全体がつかめない(財産目録が存在しない、または不正確)
・相続財産の大半が不動産で、各相続人へ簡単に分割できる財産が少ない
・相続財産が各相続人の予想以上に多い、または少ない
・被相続人が特定の相続人に多額の贈与をしていた
・相続人に、後妻、養子,非嫡出子など、実子と血縁関係のない人がいる
・遺産分割協議に参加しない人がいる
親族間の「争続」は、精神的・体力的に消耗し、深い遺恨をのこしてしまう可能性もあります。
また、無駄に話し合いが長引くと、余計な手続き費用がかかったり、税額軽減の優遇措置を受けるための期限を過ぎてしまう危険もあります。
親族間の遺産分割協議がどうしてもまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割の調停を利用することができます。
上記に示したグラフはここ10年ほどのこの調停の受件数です。
この調停は、相続人のうちの1人または何人かが他の相続人全員を相手方として申し立てるもので、申立先は相手方の住所地であったり、資料を集めてそれまでの経緯を一から家庭裁判所に説明する必要があるため、手間と時間がかかります。
遺産分割事件のうち、調停が成立した案件では、約29%が相続財産1,000万円以下、約44%が相続財産1,000万円超5,000万円以下とのことです。(「司法統計年報」家事 平成21年度)
不動産や預貯金などを合わせると、多くの家庭がこのくらいの額になるケースは珍しくないでしょう。
「争続」は、決して他人事の話ではないのです。
話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始されます。家事審判官(裁判官)が遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して審判をすることになります。
ここまでこじれてしまっては、以後の親族間の交流は修復不可能なレベルになってしまっていることでしょう。
なにより大事なことは、被相続人となられる方が生前に相続対策をしておくことです。
それも、自己流の対策ではなく、法的に有効であり、ご家族に感謝されるように準備しておく必要があります。
近年、自筆証書遺言が法的に無効とされたり、生前に行なっていた贈与が否認されるケースが増えています。
また、遺言の内容を決してご自分の自己満足なものにせず、相続人すべての事情を考慮した内容にしておくとよいでしょう。
まずは正確な財産目録を作成し、現在所有されている財産を把握することをおすすめします。
そして、ご自身のされたこと、お考えがそのままで有効かどうかは、最終的には専門家の判断を仰がれることをお勧めします。